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UIターン人材を確保するには?バーチャル地域で人を呼ぶ「南富士山シティ」の成功事例

2021.05.28

こんにちは、株式会社hypexです。都市部以外の地域では、UIターン人材の採用に力を入れたいという企業・団体が多く見られます。しかし「いまいち成果が出ない」「具体的な進め方がイメージできない」ことも多いようです。

そんな課題に対するヒントを探るべく、今回取材したのは静岡県のバーチャル都市「南富士山シティ」の発起人かつ市長(仮)でもある鈴木大悟さん。本業の家具工場経営の傍ら地域活性化に取り組む様子からUIターン人材を獲得した実例まで、色々とお話を伺いました。

鈴木大悟氏・プロフィール>

一般社団法人南富士山シティ代表理事、株式会社フジライト代表取締役。

静岡県裾野市で生まれ育ち、高校卒業後に上京。2011年の東日本大震災をきっかけに家族と共に帰郷し、三代目社長として家業を継ぐ。2013年にソファ専門の自社D2Cブランド「MANUALgraph(マニュアルグラフ)」を立ち上げ。その後本業の傍ら2018年4月に「南富士山シティ」を設立し、地域の課題を解決するための活動を続けている。

地域を超えてまとまるバーチャル都市「南富士山シティ」

――はじめに「南富士山シティ」とはどんなものですか?

南富士山シティとは、静岡県の富士山南側の地域一帯を一つの都市として捉えたバーチャル都市です。一般社団法人として「わくわくする地域の未来を市民と共創する」という理念を掲げて活動しています。

僕は静岡県の裾野市出身なんですが、地域の発信をするにしても、そもそも認知度が低いという課題がありました。そこで近隣の三島市、御殿場市、伊豆市など、もっと広域に捉えて発信しよう、行政区画を超えることで課題を一気に解決しようとしたのが始まりです。

そうすれば、海もあって山もあって地域の魅力が広がりますし、関わる人も増えてコンテンツも増えますし。市単体の知名度の低さをカバーできると考えたんですね。対象地域の人口を足すと計100万人ぐらいになるので、政令指定都市の規模にもなります。そんなバーチャル都市の市長(仮)を僕が務めている、というわけです。

――立ち上げのきっかけや経緯について教えてください。

5年ほど前になりますが、国の施策で地方創生が活発になった時に、総務省から地方に交付金として予算が下りたんです。その時に裾野市にも東京のコンサル会社が入ることになり、コミュニティスペース「いわなみキッチン」を作りました。

しかし運営するのが地元の人間じゃないこともあって、残念ながら何の効果も見られず。さすがに見かねた市役所から、僕を含めた数名の地元の中小企業経営者に運営を任せたいと話があり、その委託を受ける形で一般社団法人南富士山シティを立ち上げました。

基本はいわなみキッチンの運営がメインでしたが、せっかく大きな予算があるので、これはチャンスだと考えまして。色々とまちづくりの活動を広げようと、バーチャル都市の発想に至りました。予算については、当初は国と市から半々ずつ、今は市が負担しています。

国の予算を使って地方創生の取り組みを行った場合、自治体が責任を持って継続させなければいけないというルールがあるんですね。きっかけとなったコンサル会社の計画書では「創業・起業の数を増やすこと」というKPIが課せられているので、試行錯誤しつつ活動を続けているところです。

例えば、最初は「START UP CAMP in 南富士山シティ」と名付けて、起業に興味のある人を呼んで二泊三日のキャンプをしていました。講師を入れて事業計画を立て、いくらの投資を受けて始めるか、といったことに取り組む企画です。でも結局、この田舎でスタートアップを起業する人は皆無で。

だから今は、超スモールビジネスを始める人の背中を押すという活動にシフトしています。「デザイナーとして独立したい」「お店を始めたい」というプレイヤーは少なからずいるので、その方が現実的なんですよね。個人事業主やフリーランスでもKPIとしての起業数は達成できますし、そういったビジネスの後押しに力を入れています。

三つの取り組みが連動して、地域に人を呼び込む

――南富士山シティでは、具体的にどんな取り組みをしていますか?

事業の柱として三つの取り組みがあり、まず一つ目が産業連携促進事業です。起業相談を受けたり、専門家を置いて中小企業に軽いコンサルをしたりといった内容ですね。これは市からの要望でもあり、地域の課題である「儲からない」を解決しようとしています。

二つ目はアウトドア事業です。地域の魅力と特性を活かすのはアウトドアだろうということで、人々を呼び込む観光促進コンテンツの一つとして取り組んでいます。これは地域に「誰も来ない」を解決するものです。

具体的には、アウトドアブランドのスノーピークさんと提携して「手ぶらキャンプ」というサービスを提供しています。スノーピークさんの提携先として地元のキャンプ場を3つほど載せてもらい、僕らは手ぶらキャンプの申し込みが来たらそこにつないでいます。

三つ目は定住移住促進事業です。これは本当に移住したい人や、またこの地域に帰ってきたい人の相談に乗り、地域に「誰もいない」を解決することを目指しています。ここに、南富士山シティの概念がすごくプラスに働くんですよ。

例えば「静岡に定住したい」という人に対して、海が欲しいなら沼津市、山に住みたいなら裾野市、東京へ通うことが多いなら新幹線の駅がある三島市、という感じで勧められます。広域でリソースを持てば提案の幅が広がるので、近隣市町村と連携した移住定住の取り組みはすごく有意義だと感じますね。

これら三つの柱が、一見あまり関係なさそうで実はすごく連動しているんです。手ぶらキャンプでこの地域を知っていただき、それが移住定住や関係市民(地域に深く関わってくれる人)につながり、その人たちが地域の産業に寄与してくれている。特にコロナ禍以降はアウトドアブームと移住定住に追い風が吹き、相談も増えていい流れが生まれています。

実際には、僕らが関わって裾野市に移住したのが3~4人でしょうか。ちょうど相談件数が増えてきた頃にコロナ禍になってしまいましたが、これまで計20~30人ほどの実績があります。これから一気に増えると思うので、年5~10人ペースを目指していきたいですね。

地域出身者の「地元への思い」にアプローチ

――周りの人たちをどのように巻き込んでいきましたか?

やっぱりこの地域出身で、今はこの地域にいない人がターゲットですね。どこかで地域に対して何かしなきゃ、関わりを持ちたい、いずれ帰りたい、といった気持ちを持っている方が多いので、そこに接触することは一つの戦略かもしれません。

南富士山シティには「名誉アンバサダー」が2人いるのですが、大きな影響力を持っていて活動の核になってくれました。色々な人や企業を紹介してもらい、そこから波及して活動にコミットしてくれる人が増え、今は運営を手伝ってくれる仲間が周りにたくさんいます。

名誉アンバサダーの方はすごく著名な方で、裾野市出身ということも以前から知っていたんです。そこで自らコンタクトを取って会いに行き、団体を立ち上げる相談をした時には喜んで受けてくださいました。地位がある方ほど、地元への思いをお持ちの方が多い気がします。

地元の人々に対しては、地域団体での関わりが重要ですね。僕も34歳で家具屋の三代目として地元に帰ってきた時に、青年会議所の団体から誘われて。そこは仲間づくりの場として最適でした。“まちおこし”のためにお互い連携して縦と横のつながりができているので、僕もそのコミュニティが土台になっています。

――そんな中で苦労したことはありますか?

僕自身Uターンした身ですが、どうしても都市部と地域には情報の格差、感覚の違いがありました。最初は地域の団体に参加しても「東京帰りで気取って」「生意気」と見られる存在だったんです。

例えば6~7年前、地元のイベントでクラウドファンディングを使う提案をしたんですが「それ何?」「意味が分からない」という反応で、理解してもらうのに苦労しました。地元の農家さんを救うプロジェクトでは、近隣のおじちゃん・おばちゃんが「ネットは分からないからこれでやってくれよ」と、現金5万円や10万円を直接封筒で持って来たことも(笑)返礼品を組み合わせつつ、なんとかシステム上に反映させましたね。

色々と試行錯誤しつつも、少しずつ成果を出したりメディアに取り上げてもらったりすることで、やっと認めてもらえるようになってきました。「あいつが言ってたのはこういうことか」と理解されるまでは、やっぱり大変だったなと思います。

UIターン人材の獲得には、地域の認知×企業努力が必要

――地域活性化のため、UIターン人材の採用には取り組んでいますか?

南富士山シティの活動領域としては、採用や直接的なあっせんには至っていません。とはいえ企業側も働く側も、お互いのニーズはすごくあると感じています。だから僕らは、認知度を高めて移住定住でサポートしているという状況ですね。

PRの面では、SEOや広告、Twitter、プレスリリースに特に力を入れているわけではなく。しいて言えば、アウトドアやワーケーション、焚火などのコンテンツを打ち出すことで自然とPRできたのかもしれません。地域性はメディアに取り上げられやすいので、認知されるのは意外と難しくないようです。

その先は企業努力によるものが大きいと思います。僕の経営するフジライトでも対応を促進していて、実際にUターン採用が5名ほど。裾野市ではないですが近隣地域の出身です。

弊社がUターン人材を採用できたのは、Wantedlyで出した記事がちょっとバズったというか、サイト内で取り上げられたことも大きかったです。それをきっかけに一気に5人の応募があり、うち2人を採用することになりました。

東京など都市部に行った人が「地元でどこかいい企業ないかな」と探していることって意外にあるんですよ。実は求人の募集ってあんまりないですし。うちの例でも、募集が出るのを待っていてくれた人もいました。Uターンは若い人、30代が多い印象ですね。

都会にあって地域にないもの、その逆もまたあると思います。競合は多くないですが、その中で選んでもらうには、地元に戻りたい人に対してワクワク感をどう出していくか。例えば弊社のソファブランド「マニュアルグラフ」のように、地域に根差したブランドという見せ方をすると、興味を持ってもらえるかもしれません。

――会社経営と地域活動、二つのつながりは大きいですか?

僕はフジライトという会社を経営しつつ、南富士山シティという地域活動に取り組んでいますが、自分の中ではチャネルがちょっと違うんですね。やっぱりビジネスとボランティアというか、ある意味で線を引いているところはあります。

ただ、これらは直接的に連動していないものの、ゆるやかなつながりは当然あります。本業を通じて地域に寄与できる部分はありますし、例えば弊社のソファブランドでは、地域に人々を呼び込むことを目指しています。

あるいは、そもそも地域が活性化しないとビジネスも成り立たない、というのも事実です。経営者自身がまちづくりのプレイヤーの一人になることで、企業が行政や地域とのつながりを持てる、というメリットもあるかもしれません。

事業を推進してくれる「本物の市長」を見つけたい

――最後に一言お願いします。

裾野市は今、トヨタ自動車の実験都市「ウーブン・シティ」ができることで大きな注目を集めています。一方でこのアウトドアブームの継続もあり、地域としてすごく追い風を感じているんですね。実際に色々な企業からたくさん話をいただいています。

おかげさまで南富士山シティも成長しているのですが、僕自身は本業があるので、もう片手間ではできないほどの状況で。だからこそ僕に代わる「本物の市長」として、活動を推進してくれる人材を見つけたい、育てたいと思っています。これが今の目標です。

もちろん市長の立場ではなく、この活動を少しでも手伝っていただける方、関係市民としてご興味のある方はいつでもご連絡ください。お待ちしています!

――ありがとうございました!

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